こんにちは。沖縄県の行政書士竹倉事務所です。
沖縄は、年々増加するインバウンド観光客の影響もあり、日本有数の人気観光地となっています。
そんな中、近年注目を集めているのが「民泊」です。リゾートホテルとは一味違う、地元ならではの温かさや暮らしに触れられる宿泊体験が、多くの旅行者から高く評価されています。
沖縄で民泊を運営することは、旅人にとっては忘れられない滞在を、地元にとっては経済や地域活性化の新たな起点を創り出す、価値ある取り組みです。
沖縄で民泊を開業するには、「住宅宿泊事業法」に基づく知事等への届出、または「旅館業法」に基づく許可が必要です。
この記事では、多くの方が選択される「住宅宿泊事業法」に焦点を当てて解説します。
「民泊」とは?
法令上の明確な定義はありませんが、一般的には戸建住宅やマンションなどの住宅の全部または一部を活用して旅行者に宿泊サービスを提供することを指します。
これは、多様な宿泊ニーズに応えつつ、安全衛生や近隣トラブルに対応するために制定された「住宅宿泊事業法」に基づいています。
事業を始めるには、知事等への届出が必要です。
届出書には、事業者情報、住宅の所在地や種類(一戸建て、長屋、共同住宅、寄宿舎など)、規模、管理委託の情報、事業実施中の不在に関する事項、賃貸人等の承諾状況、管理規約に関する事項などを記載します。
届出をする前に確認すべき重要なポイント
•賃貸・転貸物件の場合: オーナー(賃貸人または転貸人)が住宅宿泊事業を目的とした転貸を承諾している必要があります。
•マンションの場合: 管理規約で住宅宿泊事業が禁止されていないか確認が必要です。規約に定めがなくても、管理組合の方針を確認しましょう。
•消防法令: 届出住宅を管轄する消防署から「消防法令適合通知書」を入手する必要があります。
•対象となる「住宅」: 台所、浴室、便所、洗面設備が設けられている単位が最小単位です。
また、事業の用に供される家屋が、人の居住の用に供されていると認められる家屋である必要があり「現に人の生活の本拠として使用されている家屋」、 「入居者の募集が行われている家屋」、「随時その所有者、賃借人又は転借人の居住の用に供されている家屋」のいずれかに該当するものである必要があります。
別荘、セカンドハウス、転勤・相続した空き家などの年に1回以上使用している既存家屋は該当しますが、民泊専用の新築投資用マンションは対象外です。(住民票や公共料金の使用履歴などを求められるケースあり)
事業運営上の主な要件と注意点
•年間営業日数の上限: 住宅宿泊事業は年間180日までしか宿泊サービスを提供できません。
これは宿泊料を受けて宿泊させた日数で計算し、同じ日に複数グループが宿泊しても1日と数えます。
•管理体制:届出者自身が事業期間中、届出住宅内に居住し続ける場合は、自己管理が可能です(一時的な不在は除く)。
ただし、隣接して居住するだけでは自己管理の要件を満たしません。
自己管理できる居室数は合計5室までです。
これを超える居室や、事業期間中に届出者が住宅内に居住しない「家主不在型」の場合は、住宅宿泊管理業者(国土交通大臣の登録を受けた事業者)に管理業務を委託することが法律で義務付けられています。
•家主不在型の場合の管理委託: 管理委託しないと届出が受理されず、無届け営業と見なされるおそれがあります。
委託する業務内容は、宿泊者の本人確認・名簿作成・保存、近隣住民への配慮説明、衛生管理、緊急時対応、滞在中の確認など多岐にわたります。なお、住宅宿泊管理業務の委託は、住宅宿泊管理業務の全部を契約により委託する必要があります。
住宅宿泊管理業者とは必ず業務委託契約書を締結し、契約書の写しなどを届出時に提出が必要です。
登録業者か確認し、実態のない形式的な委託は指導・命令の対象となります。
•衛生管理: 適切な除湿、定期清掃・換気、宿泊者ごとのシーツ交換などが必要です。
感染症の疑いがある宿泊者がいた場合は保健所に通報し、指示に従う義務があります。
•安全対策: 届出住宅には、届出番号を記載した標識を掲示する必要があります。
届出番号通知前に事業開始すると法違反です。
•近隣トラブル防止: 周辺地域の生活環境への悪影響防止に関する事項(騒音、ゴミ出しルールなど)を、宿泊中にいつでも確認できる方法で宿泊者に説明する義務があります。特に騒音には配慮が必要です。
不審者の滞在確認、7日以上の宿泊の場合は定期的な面会による確認が望ましいです。
沖縄県・那覇市独自のルール
沖縄県で事業を行う場合、国のルールに加え、「沖縄県住宅宿泊事業の実施の制限に関する条例」の内容を必ず確認する必要があります。
また、那覇市で事業を行う場合は「那覇市住宅宿泊事業の実施の制限に関する条例」および「那覇市における住宅宿泊事業の実施運営に関する要綱」の内容を必ず確認する必要があります。
•届出方法・提出先: 原則として全国共通の「民泊制度運営システム」を利用して行いますが、書類を郵送または窓口提出する場合は、管轄の保健所が提出先となります。沖縄県内には5ヶ所の保健所があります。
•事前相談: 原則として、管轄保健所での事前相談が必要です。これは、建築基準法や用途地域で民泊が可能か、消防設備は適切か、近隣配慮はできているか、旅館業に該当しないかなどを事前に確認するためです。
那覇市内で事業を行う場合は、那覇市保健所での事前相談が必須です。
•沖縄県独自の添付書類: 国の「民泊制度ポータルサイト」に掲載されている書類に加え、沖縄県では以下の書類の提出を求めています。
- 施設周辺地図(150m範囲、用途地域記入)
- 消防法令適合通知書
- 住民票抄本(マイナンバーなし、本籍地記載あり)
- 所定の様式(暴力団排除条項に係る様式、欠格事由に該当しないことの誓約書)
添付書類チェック表も活用できます。
•事業開始後の義務(定期報告): 届出が完了し事業を開始した後は、定期報告義務があります。
届出住宅ごとに、毎年2月、4月、6月、8月、10月、12月の15日までに、直前の2ヶ月間の「宿泊日数」「宿泊者数」「延べ宿泊者数」「国籍別の宿泊者数の内訳」を知事に報告する必要があります。報告も原則システム利用です。
•那覇市独自の制限: 那覇市内で事業を行う場合は、那覇市独自の条例や要綱が適用され、特定の区域や期間で住宅宿泊事業の実施が制限されています。
届出の流れ(例)
ステップ1:民泊の実施可否を確認
- 物件の用途地域を確認( ※沖縄県では市町村によって条例で制限区域あり)
- 住宅宿泊事業として要件を満たしているか
- マンションの場合、管理規約で禁止されていないか確認
- 賃貸物件ならオーナー(所有者)の承諾が必要
ステップ2:管理方法を決定
- 自分で管理する
- 管理業者に委託する → 国に登録された業者であることを確認
ステップ3:必要書類の準備(届出地が那覇市内かそれ以外かによって一部異なる)
- 民泊制度ポータルサイトに掲載されている書類(届出書、居住要件を満たす証明書類、住宅の図面等住宅の図面など)
- 沖縄県独自の添付書類(条例確認、保健所へ事前相談)
- 那覇市は独自の基準を参照
ステップ4:届出の提出(電子申請)
- 民泊制度運営システムを利用
- 管轄保健所へ提出
ステップ5:行政の審査
- 書類不備・要件不備の場合は差戻し
- 適法と認められると「届出番号」が交付
ステップ6:営業開始準備
- 住宅宿泊事業者標識の掲示
- 近隣住民への事前説明、通知
ステップ7:管理・報告義務
- 宿泊者名簿の作成と保管義務
- 定期報告
- 騒音・ごみ・トラブル対策などの衛生管理 など
住宅宿泊事業と旅館業の違い
比較項目 | 住宅宿泊事業法に基づく民泊 | 旅館業法に基づく許可事業(ホテル、旅館、簡易宿所等) |
根拠法令 | 住宅宿泊事業法 | 旅館業法 |
事業の性質 | 住宅を活用した宿泊サービス | 宿泊を目的とした施設を提供する事業 |
手続き | 都道府県知事等への届出 | 都道府県知事等の許可が必要 |
年間営業日数 | 年間180日を上限とする(条例制限あり) | 日数制限なし |
施設の構造・設備 | 住宅として一定の要件を満たす | 旅館業法に基づく基準を満たす(より厳格な場合が多い) |
管理体制 | 自己管理または管理業者に委託 | 管理者等を置く必要がある |
最後に
住宅宿泊事業は既存住宅を活用しやすく、手続きも届出ですが、年間日数制限や条例による制限があります。
旅館業は施設基準などが厳格ですが、日数制限なく運営できます。
どちらの形態がご自身の計画に合っているか、手続きを進めるにはどうすれば良いかなど、ご不明な点やご不安な点があれば、当事務所へお問い合わせください。
当事務所では、届出書類の作成から手続きの代行まで幅広くサポート、ご依頼完了後も、1年間無料相談付き(※変更・廃止届などの追加業務は除きます)です。