沖縄県の農地(田や畑)を売買、貸借するのに必要な手続き

目次

1. 「農地法第3条」って何?

農地(田んぼや畑など)を「売ったり」「貸したり」「もらったり」するには、農業委員会の許可が必要です。
これは、農地がきちんと使われるようにするためのルールで、勝手に売買などをすると無効になります。

農地法第3条は、農地がきちんと使われるようにし、農家の経営が安定するように、農地の売買や貸し借りなどの権利のやりとりにルールを設けている法律です。

対象となる例

  • 農地の売買(買ったり売ったり)
  • 農地の贈与(タダでもらう・あげる)
  • 農地の賃貸借、使用貸借(農地の貸し借り)
  • 農地の交換(他の土地と交換)
  • 抵当権をつける(借金の担保にする)など

許可なしでやったらどうなる?

農地法第3条の許可を受けずに行った権利移動は、法律上無効となります。また、違反者には懲役または罰金が科せられる可能性があります。

2. 沖縄県での手続きの流れ

① 相談から許可までの流れ(例)

  1. 事前相談 市町村の農業委員会に相談します。
  2. 必要書類を準備 申請書や、土地の図面、契約書などを集めます。
  3. 申請書を提出 農業委員会に書類を出します。
  4. 現地調査 農業委員が土地の様子を見に行きます。
  5. 会議で審査 月1回の会議で審査されます。
  6. 許可書の交付 問題なければ許可書が出ます。
  7. 登記手続き(売買などの場合) 法務局で名義変更をします。

② 市町村ごとの受付期間(例)

沖縄県内の各農業委員会では、申請受付期間を設定しています。

主な市町村の受付期間は日曜・祝日・閉庁日などによりますが、現時点ではおおよそ以下の通りです。

市町村受付期間
沖縄市毎月10日~15日
うるま市毎月1日~10日
南風原町毎月7日~12日
糸満市毎月10日まで
南城市毎月10日まで
読谷村毎月5日~10日

重要:受付期間は市町村により異なるため、必ず事前に該当する農業委員会事務局にご確認ください。

また、この情報は変更される可能性があるため、実際の利用時には各農業委員会へ最新情報の確認が不可欠です。

3. 必要な書類(一例)

基本の書類

  1. 農地法第3条の規定による許可申請書(様式第2号の1)
  2. 農地法第3条許可申請書(別添)(様式第2号の1-2)
  3. 営農計画書
  4. 土地登記簿謄本(発行から3ヶ月以内)
  5. 公図の写し(発行から3ヶ月以内)
  6. 案内図(位置図)

権利移転の種類別追加書類(状況に応じた書類)

売買の場合
  • 売買仮契約書
  • 譲渡人の印鑑証明書
  • 譲受人の印鑑証明書
  • 住民票
賃貸借の場合
  • 賃貸借契約書(案)
  • 賃借人の住民票
贈与の場合
  • 贈与証書
  • 贈与者の印鑑証明書
  • 受贈者の印鑑証明書
  • 親族関係を証する書類
その他の書類
  • 農業者年金受給者証明書(該当者のみ)
  • 農地取得後の営農計画書
  • 委任状(代理人申請の場合)
  • その他農業委員会が必要と認める書類

注意:申請書類は市町村により様式が異なる場合があります。必ず該当する農業委員会の様式を使用してください。

4. 手数料や費用について「令和7年7月現在」

農業委員会への手数料

農業委員会への申請手数料は無料です。ただし、以下の実費が必要になります。

実費一覧

項目費用
登記簿謄本600円/通
公図の写し450円/通
印鑑証明書300円/通(自治体により異なる)
住民票300円/通(自治体により異なる)

行政書士報酬(参考)

当事務所へ依頼する場合の報酬額の目安

業務内容報酬額(税込)
農地法第3条許可申請33,000円~
農地法第3条届出のみ11,000円~

登記費用(売買の場合)

  • 登録免許税:固定資産税評価額×2%
  • 司法書士報酬:50,000円~100,000円程度

5. どれくらい時間がかかる?

標準処理期間

沖縄県内の農業委員会における標準的な処理期間は以下の通りです

段階期間
申請受付から農業委員会総会まで約3週間
農業委員会総会での審議月1回開催
許可書作成・交付約1週間
合計約1ヶ月

処理期間に影響する要因

  • 申請書類の不備
  • 営農計画の妥当性
  • 現地調査の結果
  • 農業委員会総会の開催日程
  • 許可要件の適合性

注意:書類に不備がある場合や追加資料が必要な場合は、処理期間が延長される可能性があります。

6.許可をもらうための条件

主要な許可要件

全部効率利用要件(すべての農地をきちんと使うこと)

譲受人(借受人)が、現に耕作している農地および取得予定の農地全体の効率的な利用が図られていること。

農作業常時従事要件(農業にしっかりと取り組むこと

譲受人(借受人)が、農作業に常時従事すること。年間150日以上の農作業従事が目安。

下限面積要件(農地の広さが一定以上であること)

譲受人(借受人)の農地取得後の経営面積が、下限面積以上であること。

(農地法では下限面積要件が廃止されましたが、各農業委員会が地域の実情に応じて目安を設けているかを確認)

地域調和要件(周囲の農業に支障を与えないこと)

農地の集団化、農作業の効率化、その他地域の農業上の効率的・総合的な利用の確保に支障を生じないこと。

欠格要件

以下に該当する場合は許可されません

  • 申請者が法人で、農地所有適格法人でない場合
  • 信託の引受けの場合
  • 農地の転用を目的とする場合(すぐに家を建てる目的など)
  • 農地法違反の罰則を受けた場合

7. 注意点・重要なポイント

事前準備の重要性

申請前の事前相談は必須です。農業委員会事務局で要件確認、必要書類の確認を行い、問題点を事前に把握することで、スムーズな申請が可能になります。

営農計画書の重要性(何を育てるか、どれだけの広さで、どうやって売るかなど)

営農計画書は許可判断の重要な要素です。以下の点を明確に記載する必要があります。

  • 栽培作物の種類・面積
  • 作付け計画
  • 農業機械の保有状況
  • 労働力の確保計画
  • 販売計画
  • 収支計画
営農計画書の具体例

栽培作物の種類・面積の記載例

【記載例】
作物名:ゴーヤー
栽培面積:30a
作付け時期:4月~10月
予想収量:3,000kg
販売予定価格:300円/kg
売上予定額:900,000円

作物名:インゲン
栽培面積:20a
作付け時期:11月~3月
予想収量:1,000kg
販売予定価格:500円/kg
売上予定額:500,000円

農業機械の保有状況記載例

【記載例】
・トラクター:○○製 30馬力(購入予定:令和○年○月)
・耕運機:○○製 5馬力(既保有)
・軽トラック:○○製(既保有)
・散水設備:スプリンクラー×10台(購入予定:令和○年○月)

労働力の確保計画記載例

【記載例】
・申請者本人:年間180日従事予定
・配偶者:年間120日従事予定
・繁忙期の労働力確保:
  - 地域の農業組合から臨時雇用 2名
  - 農業大学校の実習生受入れ 1名
・農作業委託予定:
  - 土地の整地:○○農機センター
  - 収穫作業:○○農業協同組合

販売計画の具体的記載例

【記載例】
・販売先①:○○農業協同組合(全生産量の60%)
・販売先②:道の駅○○(全生産量の30%)
・販売先③:直売所での販売(全生産量の10%)
・販売時期:
  - ゴーヤー:6月~10月
  - インゲン:12月~3月
・品質管理:GAP認証取得予定

収支計画の詳細記載例

【記載例】
【収入】
・ゴーヤー売上:900,000円
・インゲン売上:500,000円
・合計収入:1,400,000円

【支出】
・種子・苗代:50,000円
・肥料・農薬代:200,000円
・農機具リース料:100,000円
・燃料費:80,000円
・労務費:300,000円
・その他:70,000円
・合計支出:800,000円

【純利益】
・年間純利益:600,000円
・10a当たり純利益:120,000円
注意点

現実的な計画の策定

  • 地域の気候条件に適した作物選択
  • 市場価格の動向を考慮した価格設定
  • 申請者の農業経験に見合った規模設定

数値の根拠を明確に

  • 収量予測の根拠(地域平均、試験結果等)
  • 価格設定の根拠(市場価格、取引先との協議等)
  • 経費計算の根拠(見積書、実績等)

継続性の確保

  • 3年以上の中長期計画の提示
  • 経営の安定性を示す財務計画
  • 技術習得や設備投資の計画

地域との調和

  • 周辺農家との協調
  • 地域農業の振興への貢献
  • 環境保全への配慮

農業委員会による現地調査

申請後、農業委員による現地調査が行われます。以下の点が確認されます

  • 申請地の現況
  • 周辺農地との関係
  • 営農の実現可能性
  • 申請内容との整合性

許可後の義務

重要:許可取得後も以下の義務があります。

  • 営農計画に従った適正な農地利用
  • 農地の荒廃防止(放置するなど)
  • 無断転用の禁止(勝手に家を建てるなど)

農業委員会への報告義務(必要に応じて)

  • 報告時期:前年度分を毎年7月中旬(7月15日が目安)、地域によって異なるため要確認
  • 報告内容
    • 農地の利用状況
    • 作付け作物の種類・面積
    • 農業機械の保有状況
    • 農産物の販売実績
    • 営農計画の達成状況
  • 報告方法:農業委員会が指定する様式による書面提出
  • 未報告の場合:指導・勧告の対象となり、改善されない場合は許可取消しの可能性

農業者年金受給者の特例措置

農業者年金受給者が農地を貸し付ける場合の特例

農業者年金の受給者が農地を第三者に貸し付ける場合、以下の特例措置があります

  • 経営移譲年金受給者:農地を後継者または第三者に貸し付けることで年金受給要件を満たすことができます
  • 農用地利用集積準備金制度:農地を農地中間管理機構に貸し付けた場合、準備金の交付を受けることができます
  • 必要書類:農業者年金受給者証明書の提出が必要です

違反時の措置

許可取消しや原状回復命令について

農地法第3条の許可条件に違反した場合、以下の措置が取られます

  • 許可の取消し:農地法第18条に基づく許可取消し
  • 原状回復命令:農地への復旧命令
  • 代執行:義務者が原状回復を行わない場合の行政代執行
  • 罰則:3年以下の懲役又は300万円以下の罰金

主な違反事例

  • 営農計画に従わない利用
  • 農地の荒廃・放置
  • 無断での転用
  • 虚偽申請による許可取得

8. よくある質問(Q&A)

Q1: 農地を購入後、すぐに住宅を建てることは可能ですか?

A1: できません。農地法第3条の許可は農地として利用することを前提としており、許可取得後に住宅等を建築する場合は、別途農地法第4条または第5条の転用許可が必要です。早期の転用は原則として認められません。

Q2: 農業経験がない場合でも許可は取得できますか?

A2: 農業経験がなくても、適切な営農計画を提出し、農作業常時従事要件(年間150日以上農業にしっかりと取り組むこと)を満たすことができれば許可の可能性があります。ただし、実現可能性の高い営農計画の策定が重要です。

Q3: 農地の賃貸借契約の期間に制限はありますか?

A3: 農地法上、賃貸借期間の上限はありませんが、安定的な農業経営を確保するため、一定期間以上の契約期間を設定することが推奨されます。

Q4: 農地を相続により取得した場合の手続きは?

A4: 相続による農地取得の場合は、農地法第3条の許可は不要ですが、農業委員会への届出(農地法第3条の3)が必要です。届出の期限は、権利取得を知った日から概ね10ヵ月以内です。

Q5: 申請が不許可になった場合の対応は?

A5: 不許可理由を確認し、問題点を改善した上で再申請することが可能です。また、異議申立てや、審査請求も可能です。

Q6: 農地法第3条の届出との違いは何ですか?

A6: 届出は相続、時効等により農地の権利を取得した場合に必要な手続きです。許可は契約等により権利を取得する場合に必要で、事前の承認が必要な点で異なります。

Q7: 農地取得後、営農を継続できなくなった場合の対応は?

A7: 以下の対応が必要です

  • 農業委員会への相談:営農継続困難の理由を説明し、対応策を相談
  • 農地の適正管理:営農できない期間も農地として適正に管理
  • 権利移転の検討:継続困難な場合は、農地中間管理機構への貸付けや第三者への譲渡を検討
  • 転用許可の検討:農業以外の用途への転用が必要な場合は、転用許可を申請

Q8: 農地法第3条の許可と農業委員会の斡旋の違いは?

A8: 以下の違いがあります:

  • 農地法第3条許可:売買契約等の権利移転に法的効力を与える行政処分
  • 農業委員会の斡旋:農地の貸し手と借り手をマッチングする仲介サービス
  • 関係性:斡旋により契約が成立した場合も、最終的に農地法第3条の許可が必要
  • 費用:斡旋サービスは無料、許可申請も手数料は無料(実費のみ)

Q9: 農地中間管理機構との使い分けは?

A9: 以下の基準で使い分けを検討してください

  • 農地中間管理機構の利用が適している場合
    • 農地の集約・集積を図りたい場合
    • 不在地主で農地管理が困難な場合
    • 農業経営の規模拡大を図る担い手に貸し付けたい場合
  • 農地法第3条許可が適している場合
    • 特定の相手方との直接取引を希望する場合
    • 農地の売買を行う場合
    • 個人的な事情による農地の貸借を行う場合

Q10: 農地法第3条の許可期間中に契約内容を変更したい場合は?

A10: 契約内容の変更には以下の手続きが必要です

  • 軽微な変更:農業委員会への届出
  • 重要な変更:新たな農地法第3条の許可申請
  • 重要な変更の例:賃料の大幅変更、契約期間の大幅延長、利用目的の変更
  • 注意点:無断での契約変更は違反行為となる可能性

9. 農地の貸借手続きの制度変更について(利用権設定の廃止)

制度改正の概要

令和7年(2025年)4月より、農地の貸借に関する制度が変更されました。

利用権設定等促進事業(相対契約)が廃止され、農地中間管理機構(農地バンク)を通じた手続きまたは農地法第3条許可申請のいずれかでの手続きとなります。

主な変更点

  • 農業経営基盤強化促進法による利用権設定(相対契約)の廃止
  • 農地中間管理機構(農地バンク)を通じた手続きの推進
  • 農地法第3条許可申請の継続

実務への影響

制度改正により、以下の影響が予想されます

  • 農地の貸借手続きの選択肢の変更
  • 農地バンクの利用増加
  • 農地法第3条申請の重要性の高まり
  • 手続きの複雑化

10. まとめ

農地を売ったり借りたりするには、しっかりとした準備と手続きが必要です。
沖縄県でも他の地域と同じように、厳しいルールがあります。

重要なポイント

  • 事前の十分な準備と相談
  • 実現可能性の高い営農計画の策定
  • 必要書類の確実な準備
  • 許可要件の正確な理解
  • 専門家との連携

制度改正も踏まえ、農地法第3条の許可申請は、農業の発展と農地の適正利用を支える重要な制度として、今後も継続されます。

農地の権利移動を検討される際は、早めの準備と行政書士への相談をお勧めします。

当事務所では報酬額・実費を必ず事前に提示し、事前確認から許可まで迅速に対応します。

また、許可後1年間の相談やアフターフォローを無料で行っております。

注意事項

本記事の内容は、作成時点での法令・制度に基づいています。実際の申請に際しては、必ず該当する農業委員会事務局にご確認いただくとともに、最新の法令・制度の動向にご注意ください。

※本記事は、令和7年7月時点の情報に基づいて作成されています。

※実際の申請に際しては、各農業委員会事務局への事前相談をお勧めします。

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